セカンドライフ〜カリフォルニアの海から〜

高収入

セカンドライフ。退職金で不動産投資でちょっと遊べるくらいの金を手にした

セカンド?いや意識的にはファースト。思い切って海外へ

不動産会社を周りやっとお気に入りの物件と土地を見つけた

夢に見たカリフォルニアの海から・・・

セカンドライフ〜カリフォルニアの海から〜

午後の乾いた潮風は汗をかいたシャツをカラッと乾かしてくれる

ワタナベは某大手自動車企業の幹部を定年で引退し

セカンドライフをカリフォルニアで過ごすべく移住した

仕事人間だったためか妻とは十年前離婚

大学の頃少しかじっていたサーフィンと釣りをしながらのんびり余生を過ごそうという計画だ

「やあ、マイク元気かい?ボードはどんな具合だい?」

「お、ワタナベ待ってたよ。まだまだかかりそうだよ。というかオーダーはワタナベだけだけどな。」

マイクはワタナベと同世代でこの場所で20代の頃からサーフショップを営んでいる

「今日の波はあまり良くないね」

「そうかな?ボード磨きながら波の音だけ聞いてる限りでは程よい波だと思ってたんだが」

「なんだか波に一貫性がないかんじ。散らかってるかんじだよ」

「うちの嫁みたいだな。見た目機嫌良さそうだけどさっき先月の売り上げのことや酒場のツケのことででだいぶあれこれ叱られたよ」

マイクの冗談に2人で大笑いしてしまう


そこへ一台のベスパが停まる

「あの、新しいボードを新調したいんだけど」

「やあ、そこでかけて待っててくれよ、今先客がいるからさ」

金髪のロングヘアーで水着姿の美しい20歳前の少女だった

どうやら初めてこの店を訪れるらしい

「彼女きれいだね、このあたりの子かな?」
ワタナベがマイクにたずねると彼女が割って入り

「私、ジニー。よろしくね。レモネードあるかしら?」

背中ごしにOKと合図しマイクが三人分のレモネードをカウンターに用意する

「へえ、ジニーか。サーフィンをやるんだね。ぼくは学生時代に少しかじったくらいだからまだまだ下手くそだけど。」

「うまいへたなんてどうでもいいわ。愛すればいいのよ。楽しむのよ。」

ワタナベは長い仕事人生の中で仕事や家庭を愛するとか楽しむとかいう余裕がなかったことを彼女の言葉で悔やんだ

「愛するか。楽しむか。」

「そうよ。自然にありのままに。しようと思ってすることじゃないわ。」

考えてみるとワタナベはセカンドライフとしてカリフォルニアの地を選び

サーフィンと釣りで余生を楽しもうと「計画」している

この「計画」すらむしろ間違いなのではないかと気づく

「はいはいおふたりさんお熱いこと」
マイクがレモネードを持って来てくれた

「愛するとか楽しむって実際自分は自然にはしてこなかった。義務的に行ってきたにすぎないんだな・・・」

「俺なんかはさ、若いうちからサーフショップやってるけど仕事とか義務感とか感じたことはないなぁ」

「日本人て勤勉なのは素晴らしいわ。でもどこか生きることに一所懸命すぎて余裕がなく見えて少しかわいそうだわ」


ワタナベはレモネードをひといきに飲み干した

海を眺めていた

喉を滑り行くレモネードの甘酸っぱさが彼女の言葉とともに心の隅の方をシュワシュワとちょっぴりヒリヒリ染み入るようだ

自分の人生は何だったのか、心が夕暮れに染まっていく感じがした

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他愛のない3人の会話は日が暮れるまで続いた

マイクの妻に対する愚痴や酒場で他の客と喧嘩になった話や

ジニーの家族のこと恋人のこと、将来の夢など

それぞれが様々な葛藤や苦しみを抱えながら人生を楽しむことを重視していることがうかがえる

「ワタナベは招き猫だな。ジニーていう美人で魅力的な新しいお客さんを呼び寄せてくれた。もうすぐ廃業寸前だったぜ、ありがとう」

半分冗談まじりでマイクが笑顔で言った

「わたし、そろそろ行くわ。マイク、ワタナベ、またね」

ジニーがベスパにまたがり海岸線を、颯爽と走り去った

「でも、楽しむにしても基本的に食べてかなければならない。経済的なものがベースに無いと好きなこともできない」

「たしかに俺にとっても仕事ってのはいつもいつも楽しいわけじゃないな。だけど楽しむための動機や理由なんてそこらじゅうに転がってる」

「理由?動機?」

「俺の作ったボードで客がいい波乗ってくれて幸せになってくれる、笑顔になってくれる。それだけで頑張れるよ。」

「自分のためでもあり他人のためでもある生き方か。ぼくは結局のところ家族とか会社のためと言いながら自分のことしか考えず生きてきたのか」

「ワタナベ、そう自分を責めるな。そこまで自分を追い込んでこそ立派な経済大国日本が生まれたんだろうけど豊かさとは裏腹に各人は案外不幸で孤独なんだよな。もういいじゃないか。これから楽しめば」

「でもいざ楽しもうと思っても思考がついていかない、義務的なものが先行してしまうんだ」

「ワタナベ、人生は毎日が旅だ。新しい場所の風に触れたくさんの人に出会い常に脳内を新しいものにアップデートしていくことを保つんだ。古い価値観など捨ててしまえ。断捨離って言うだろ?古いものがごちゃごちゃしていたら新しいものを収納する場所がないだろ?」

「旅か。旅はいいもんだね。まだまだ自分の知らない領域は意外とたくさんあるしね。マイク、ありがとうなんだか心のもやもやがスッキリしたよ」

「おう。もやもやな霧ならまだよかった。雨嵐になる前にまたなんかあったら遊びに来いよ。親愛なる友よ」

親愛なる友、か。なんとも言えない照れくさいようなはにかんだ笑顔を繕いながら内心とても嬉しかった

ワタナベは孤独だった

孤独だったからこそ嬉しく有難い言葉だった

夜になりマイクの店を後にし1人部屋に帰るとポストに手紙が一通入っていた

日本からのものだった

長年勤務していた会社から度重なる経営不振の中再び幹部として経営再建のため経営陣に加わってくれないかとの内容だった

読み終えてしばらくテーブルの上に置いたままベッドに横たわり窓の外の海を眺めていた

薄暗い海は月の光を柔らかくぼんやり飲み込みぼやけた眼でこちらをゆらゆらと眺めている

時計の針は刻々と静寂の中時を刻み続ける・・・

起き上がり手紙をビリビリ破いてくずかごへ捨てた

楽しもう。愛していこう。

人生はまだまだ長い旅だ。楽しもう。

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